A-1歯周病が治らない理由
厚生労働省は5年ごとに歯科疾患実態調査をおこなっています。2022年の調査では、虫歯が年々減少し、虫歯予防の効果が確実にあらわれている結果となっていました。
今までに何本の歯が虫歯になったのかという虫歯の経験を示す指数、DMFT指数で比較すると、14歳の場合、30年前の平成5年では6本であったものが、平成28年と令和4年では1本を下回っていたのです。
その他の年齢層では、14歳の場合ほどは顕著には減少していませんでしたが、それでも全ての年齢層で平成5年にくらべて令和4年の数値は少なくなっていました。
年齢層が低いほど減少率が大きくなっており、近年の虫歯予防の効果が高いことを表しています。
ところが歯周病の場合は、虫歯とは全く逆の結果になっています。
歯周病の内の歯周炎は、歯周ポケットの深さが4mm以上ある場合をいいます。4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合についての調査では、全ての年齢層において、平成17年にくらべて令和4年の方が高い割合となっていました。
虫歯の場合のデータが平成5年から令和4年まで、歯周病の場合のデータが平成17年から令和4年までで、データ比較の方法として適していない点は否めませんが、虫歯の場合を平成17年からに修正しても、先程あげた14歳でのDMFT指数は、平成17年の3.2本から令和4年では0.8本に減少していますし、全ての年齢層でも減少していることは変わりありません。
この結果から、虫歯は予防ができている、歯周炎は予防ができていないということが明らかとなっています。
今度は、令和4年の年齢階層別の歯周ポケットを有する者の割合について見てみましょう。
歯周ポケットが4mm以上6mm未満の者、6mm以上の者、およびその二つを合計した総数について、年齢階層別に表とグラフになっています。
歯周ポケットが4mm以上6mm未満の者は、年齢と共に増加していますが、増加率は緩徐です。
それにくらべて歯周ポケットが6mm以上の者は、より大きな増加率で年齢の増加にともなって増えています。
さまざまな要素を考えなくてはならず、単純に比較することはできませんが、それを無視してあえて言うと、20%の者が重症の歯周病となり歯をどんどん欠損していくことになり、40%の者が歯周ポケットは4mm以上にはなるけれど6mm未満でとどまり重症の歯周病にはならず、残りの40%は全く歯周病にならないと考えられます。
重症の歯周病となってしまう20%の者が真の歯周病患者であり、残りの80%の者は歯周病患者ではないというのが私の結論です。
ちまたでは80%の成人が歯周病だと言われています。歯科疾患実態調査では、75歳から79歳の年齢層で4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合が最も高く、60%となっています。これよりも多い20%の者は、歯周ポケットが4mm未満のただ単に歯に歯石だけが付着していた者だと推察されます。
真の歯周病の者は20%だけです。残りの60%は歯周病の治療をしなくても歯周病が重症にならない者です。治療をしなくても歯周病が進行しない者を治療して、歯周病が治ったと言っているのが現状です。
20%の真の歯周病の者は治りません。抜歯するよりほかありません。それはなぜか?
真の歯周病の原因を取り違えているからです。真の歯周病の原因は、細菌やプラーク、歯垢ではありません。真の歯周病の原因は、歯に加わる外力、歯の周りの歯肉や骨、歯周組織に悪影響をおよぼして外傷をもたらす咬合力です。
歯科疾患実態調査には、とても興味深い調査結果がありました。年齢階層別の歯や口の状態という調査結果です。その中の歯の症状、冷たいものや熱いものがしみるという項目での調査結果はたいへん興味深いものでした。
歯がしみるのが最も多い年齢階層は、何歳だと思われますか?私にとってとても意外な結果でしたが、後から良く考えてみると納得のいく調査結果でした。
最も多かった年齢階層は、25歳から29歳の28.9%でした。ついで多かったのが、20歳から24歳の20.6%でした。
記憶をたどれば、知覚過敏の患者さんは20代が多かったように思います。でも平均すると4人に1人が知覚過敏を発症していたとは思いませんでした。
知覚過敏はしばらくすると、治療をしなくても症状がなくなってしまう場合が多いので、知覚過敏の経験者と実際に治療に来る者の比率が違うのは理解できます。
この調査結果から、私の理論の裏付けができたように感じました。
真の歯周病は、20代の知覚過敏から始まり、軽度の顎関節症をともないながら、30代で4mmから6mm未満の歯周ポケットを形成し、40代で重症の歯周病へと移行する。10代で知覚過敏を発症した場合は、30代で重症の歯周病となる。
これが真の歯周病であり、プラークコントロールでは全く治すことができません。
私が33年間治せずにいた歯周病の実態を全て説明することができるようになりました。
食物を噛む時に生じる咬合性外傷力、小臼歯ではなく大臼歯で咀嚼してしまう結果、歯に働く力の悪影響が、真の歯周病の原因なのです。
硬い食物を好み、頚椎機能を悪くし、舌と下顎を後退させ、大臼歯のみで咀嚼をする20%の者が重症の歯周病に罹患し、歯をどんどん失ってゆく。
主として小臼歯を使って咀嚼する40%の者は一生にわたって歯周ポケットが4mm未満でいられる。
その中間の者は、歯周ポケットが4mm以上にはなるが6mm未満でとどまり、重症の歯周病にはならない。
これらが歯周病の実態です。20代で知覚過敏を発症した者に対して、小臼歯での咀嚼を指導すれば、虫歯と同じように歯周病も予防できるのです。
正しい咀嚼は、この世から知覚過敏と顎関節症と歯周病を根絶させることができるのです。