知覚過敏の治療に必要な正しい診査
冷たいものを口に含むと歯がしみる、甘いものを食べると歯がしみる、食物を噛むと歯がしみるなどの「歯がしみる」という症状があって患者さんが来院された時に、まずしなければならないことが虫歯と知覚過敏の鑑別です。
虫歯と知覚過敏は症状がとても似ているので、どちらの病気なのかの判別が必要になります。
また、知覚過敏と似た症状がある病気は虫歯以外にもたくさんあります。これらの病気なのか、それとも知覚過敏なのかを判断することが診断の始まりになります。
さらに知覚過敏の中にも原因の違うさまざまな種類の知覚過敏がありますので、ここまで判別ができて初めて正しい診断ができたことになります。
診査の始めは、病気である歯の特定です。どの歯がしみるのか、患者さんは意外とよくわからないようです。エアーを吹きかけたり、冷たい水を口に含んでもらったり、軽く歯をたたくことで症状を発症している歯を特定します。
続いて、その歯に虫歯があるかどうか、亀裂は入っていないかどうか、異常なすり減りがないかどうかを診査します。歯を軽くゆさぶってみてグラグラしないかどうかも確かめます。また、歯と歯肉の境目の部分を詳しく見ます。歯にくさび状のへこみはないかどうか、境い目付近の歯肉に凹面形態の1mm幅のラインがあるかどうかを診査します。
亀裂、すり減り、グラグラ、くさび状のへこみ、1mm幅のライン、これらは全て歯に過大な力が日々加わった結果現れるものです。歯に加わる力の悪影響、咬合性外傷がその歯に知覚過敏を発症させていた証拠を見つけ出します。
その後、患者さんに口を開け閉めしてもらいます。最大に口を開けた時の舌の位置を確認します。また、左右の耳の少し前方にある顎関節をさわって、口の開け閉めをした時の顎関節の動きを診査します。最後に顔を左右に向ける運動をしてもらい頚椎の回旋運動の診査をします。こんなことが歯の治療に必要なのかと驚かれたでしょう。この診査はたいへん重要で欠かすことがてきない検査項目なのです。その理由については後ほど詳しく説明いたします。
これで歯と顎関節と頚椎の診査が終わりました。次はレントゲン診査です。オルソパントモという全ての歯と顎全体を撮影するレントゲン検査をおこないます。チェック項目は多岐にわたります。
①虫歯の有無、目で見てわからない歯と歯の間の虫歯を発見できます。また、虫歯の大きさがわかり、歯の神経に達しているかどうかがわかります。
②神経のある歯か神経を取った歯なのかがわかります。また、神経を取った後の治療結果が良好なのか不良なのかがわかります。
③歯の周りの組織、歯を支えている骨、歯槽骨の状態や、歯と骨の間にあるクッションの役割をしている歯根膜の状態を診査します。この診査は最も重要で、かつたくさんの診査項目があり、詳しくは別の機会に解説いたします。簡潔にいうと、咬合性外傷が原因となっているかどうか、またその影響の程度はどのくらいか、また歯にどの方向からの力が働いているのかを診査します。
④顎関節の形態の診査、これにより顎関節や頚椎の異常が知覚過敏の発症にどのように関係しているかを診査します。
以上の診査の結果、ある程度の診断ができ、知覚過敏の原因がわかってきます。最後に普段の食事の仕方と好きな食物についてと、職種や学生であればクラブ活動についてと、さらに普段の生活習慣についても問診します。
診査すべき事項はとてもたくさんあります。知覚過敏は症状も軽く、放置していても自然に症状がなくなってしまうことも多いので、あまり危機感を持たれない病気です。
それにも関わらずこんなに詳しくたくさんのことを診査しなければならないのには訳があります。
「咬合性外傷を原因とする知覚過敏」は、10年から20年後に「治りにくい歯周病」に移行してしまうからなのです。「治りにくい歯周病」はその後、多数の歯の欠損、つまり何本も歯を抜かなくてはならない状況になってしまいます。
見過ごされてしまいやすい知覚過敏は、実はとても恐ろしい病気の注意信号なので、ここまでの細かく詳しい診査が必要になるのです。
知覚過敏から歯周病が引き起こされること、そして知覚過敏の診査をここまでたくさんしなければならないことは、たぶん歯科界の中で一般的には言われていないことでしょう。
でもこれは真実なのです。頚椎が壊れ、顎関節が壊れ、正しい咀嚼ができなくなった結果、あなたの歯は知覚過敏として危険信号を発しています。たいへんな歯周病にならないために治療がそしてあなた自身の改善が必要なのです。
次回は、知覚過敏の診断についてお話します。